①事業内容
測量分野で3D技術を導入するために
三陽技術コンサルタンツ株式会社の前身である三陽測量株式会社は、1964年(昭和39年)に群馬県前橋市で創業し、測量業を中心に事業を展開してまいりました。2012年に社名を変更し、現在は建設コンサルタント業、測量業、地質調査業、補償コンサルタント業、インフラメンテナンス等を通じて社会の課題解決に取り組んでいます。
その中で、国の動向もあり、近年は図面の3D化に向けた取り組みが加速しています。従来の図面は2次元で標準化されており、3次元という思考がそもそもありませんでした。理由は日本人が立体的なものの形を想像できる空間把握能力に優れており、2次元の図面を見れば頭の中で3次元のイメージができてしまうからでした。
しかし、誰でもすぐにそれができるわけではなく、一定の経験やそれに基づく勘が必要です。
今後さらに深刻化する少子高齢化、人手不足に対応していくためには、誰でも簡単に図面を認識し、判断ができる3Dの存在が必要不可欠になると確信しております。
また、例えば建造物を建設する場合、私たちが設計と図面作成を行い、それを建設会社にお渡しし、建設会社が図面をさらに作成して現場での作業が始まるのですが、3D図面であれば、工程短縮、施工現場の安全性向上、事業効率および経済効果の向上、コスト削減において、2D図面よりもメリットがあると考えております。
さらに、3D技術を活用すれば、施工前に建造物の完成イメージを可視化することができます。BIM/CIM(構造物を3次元モデル化して属性情報を加える)が注目される中で、今後も3D技術の重要性は高まっていくことと思います。
丁寧に、そして熱く未来を語ってくださった 代表取締役 吉岡 武宏 様
②3Dへの期待が高まる新規取組み
ケース1 360度カメラ×VRゴーグルで尾瀬のコアファンに働きかける
こうして当社が行ってきた技術研究などの経験値を蓄積し、次代につなぐためにも3D化への移行は必須です。そこで当社として、3D技術を活用してどのようなサービスが出来るかを検討していました。
そのような矢先、群馬県庁内の官民共創スペースNETSUGENで行われた官民共創ピッチにて、群馬県尾瀬保全推進室から「尾瀬の多様な楽しみ方を生み出すデジタルコンテンツを官民共創で創りたい」という課題を伺いました。これは3Dで解決ができるのではと思いました。官民共創ピッチではパートナーとして選ばれ、3D技術の活用方法をさらに検討して提案し、採択していただきました。
提案内容は、360度カメラでバーチャル空間を制作し、山の鼻ビジターセンターにVRゴーグルを設置して入山者に見てもらうというものです。テレビやスマホ、パソコンで見るものとは違う尾瀬。「疑似体験してもらう尾瀬」です。
このデジタルコンテンツの制作にあたっては、「訪れた人への感動」をより深めてほしい(=リピーターへのアプローチ)という群馬県からの大きなミッションがありました。初めて訪れる人であれば草花、動物、自然などをふんだんに入れた映像が適切なのでしょうが、リピーターはより“ディープな尾瀬”を求めるでしょう。また尾瀬は日帰り客が多いというデータがありますので「宿泊しなければ体験できない尾瀬」を擬似体験してほしい。そんな思いから、製作はどんどん熱を帯びてきました。
尾瀬のデジタルコンテンツ開発業務を行うことで、尾瀬高校DXハイスクールの取り組みにも貢献することができました。当社としては、若い世代に測量への興味を持っていただきたい。VRゴーグルという若い世代に馴染みのあるツールを活用することで「測量会社が新たなチャレンジをしている」、「測量技術が社会の役に立っている」ということを知っていただきたい。そんなひとつのきっかけになればと考えています。
現在、私たちはデータや映像をパソコンなどのディスプレイを通じて見ていますが、今後はVRゴーグルを通じて見る機会が増えるでしょう。臨場感・情報量が断然違いますし、他人に覗かれるリスクがないためセキュリティ対策にもなります。価値観の変化により様々な世界が変わっていくと思います。
左から 360度カメラ、VRゴーグルに映る尾瀬の映像、VRゴーグル
ケース2 空き家バンクでは360度カメラが大活躍
M市では、空き家バンクの効果的な情報サービス提供を行っています。当社は、M市からの依頼を受け、360度カメラを用いて空き家バンクに登録されている物件の撮影、編集、動画アップロードを行いました。2020年(令和2年)から開始し、20棟を撮影しました。
特徴は、写真や図面だけでは伝えきれない「見えにくい箇所」を確認できることです。移住目的の方や海外の方からの引き合いも多く、現地に赴かなくとも現地確認ができるということで、成約率が高いと評価をいただいています(360度カメラ活用物件の成約率は100%)。撮影された映像は、HPやYouTubeで掲載されているため、空き家で問題視されている空き巣対策としても効果が見込めます。
ケース3 VRゴーグルは土木遺産の保存、ダムマニアに向けて
VRゴーグルは、身体に障害があり遠方に出かけられない方や、遠方にお住まいの子どもたちにも貢献します。例えば土木遺産をVRゴーグルで表示することで、現地に赴かなくても臨場感あふれる環境で見ていただくことができますし、子どもたちの教育にもご活用いただけます。
また、ダムを3D化してダムマニアの方々に配信することで、自宅でいつでもダムを見ながら、お酒を飲んでいただくことも可能になるかもしれません。
➂点群データ活用で遺産の保存やインフラメンテナンスを
点群データの可能性
さきほどお伝えした尾瀬デジタルコンテンツでは、360度カメラで映像を作成していましたが、そのほかにも当社では、3D化するために点群データを活用しています。地面や建物に対してレーザーを発射し、その跳ね返りの速度から表面の凹凸などを識別することで、地形や建物を丸ごと3D化し、保存することができます。
例えば、お寺や神社など、設計図が残っていない建造物を点群データで3D保存しておくことで、火災や地震等で焼失・損壊した場合にも修復が可能になります。また、土砂崩れがあった場合でも、その前後でデータを取得しておけば一瞬で土砂の流出量などがわかり、防災・レジリエンスにも貢献します。
さらに、勾配などを数値化することもできます。数値化することで現場の状況について簡単に社内共有、分業ができるため、属人性の排除につながります。また、そのデータを建設機械と連携させることで、国が推進するi-Construction(ICT活用工事)にも寄与します。
小学校での点群データ活用例
M市にある小学校での点群データ活用事例をご紹介します。小学校のグラウンド整備のため、M市から依頼を受け、グラウンドの点群データを取得しました。取得した点群によりグラウンドの勾配や凹凸が分かるため、雨水の流れのシミュレーションなどができます。また水が溜まる箇所が分かり、土をどのくらい盛るか、削るかを着工前に把握することができるのです。
ほかにもいくつか興味を持っていただいた小学校がありますので、今後は新たな分野(教育)での活用が見込まれます。
県内における課題
業界全体におけるPR不足や需要の低さ(現段階は困っていない)という課題もありますが、未来を見据えてこのような先端技術に順応していかないと、その技術が当たり前になったときに淘汰されてしまいます。点群データの取得は簡単で、極端に言うと住民の方でも可能です。皆様に点群データについて知っていただき、普及させることで、未来の県内産業を守っていくことが私たちの使命だと考えています。
熱い想いを語ってくださった 都市計画部長 小林 祥晴 様
➃新しい価値観へシフトができるかどうか
これからの私たちは、新しい価値観にシフトできるか、それに共感できるか。が鍵を握ると思います。
そのためにもまずは、測量や建設業界に興味を持ってもらい、様々な方に携わっていただき、意見やアイデアを活発に出していただきたいと考えています。比較的閉鎖的な土木業界において、デジタル化が進展する中で、異業種連携が重要になってくると思います。
新規事業に取り組むと、それが既存事業にも生かされ、相乗効果が見込めます。決して業界が他のものにシフトしていくということではないのです。
当社では、360度カメラを活用し始めたとたんに現場の表現力が上がりました。また、クライアント様に見ていただき、共有・共感がしやすくなりました。このように、デジタル技術のおかげで、今まで叶えられなかった要望に応えられるようになったことも事実です。
(左から)都市計画部 田中 誠也 様、代表取締役 吉岡 武宏 様
➄新たなマッチングは土木業界を超え教育、観光と多岐に渡る
360度カメラやVRゴーグル、点群データ等を活用することで、多岐にわたる分野の課題解決につながります。当社は、異業種連携によるさらなる課題解決を目指しており、以下のような皆様との連携を希望しております。
教育関係
360度カメラの撮影体験やVRゴーグルを触って見てもらうことで、デジタル人材の育成に寄与します。
例えば、尾瀬高校の皆さんには私たちが技術を継承し、各種イベント時にはVRゴーグルを利用した成果発表などをしていただいています。そのような経験が価値観のシフトを促し、たとえ将来、土木業界に関わらなくても、様々な場面で生かされると思っています。
VRゴーグルを活用した人材育成にご興味のある方と、一緒に未来を創っていきたいと考えています。
観光(PR)関係
その土地のレガシーを知ってもらうための活動のお手伝いをさせていただきます。尾瀬の事例のように他のツール(PC、テレビ等)では味わえない空間を、VRゴーグルで提供することができます。またダムや歴史遺産を3D化して新たな価値を創出することも可能です。観光資源やエンタメ施設、景勝地、歴史遺産をお持ちの方、ご連絡をお待ちしております。
メーカー
VRゴーグルは、正確なサイズ感や没入感のあるリアルなイメージが重要となる、不動産、住宅メーカー、家具業界などにも貢献します。例えば家具業界では自宅に家具を置いたイメージをお客様に見ていただくシミュレーションに使っていただくことができます。是非、私たちと一緒に、新たな取り組みを始めませんか?
そのほかにも、アプリ開発業者様との連携により、3D図面をスマホで簡単に見ることができるようなアプリを開発することで、市民の皆様により広くPRでき、3D図面を身近に感じていただけるのではないかと考えております。
私たちがデジタル空間と現実空間の橋渡しになることで、新たな産業の創出、既存事業の効率化、伝統技術や建造物の継承につながると考えています。今後もチャレンジングな建設コンサルタントとして、私たちがビジョンに掲げる「創意に富む技術を持って社会に貢献」していきます。
取材にご対応いただいている、(左から)田中様、吉岡様、小林様
【プロジェクトに対する問い合わせ対応】
まずは事務局あて問い合わせフォームにて連絡をいただき、お繋ぎする形をとりたい。
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